【講座主旨】
サルファ剤、ペニシリンの発見をきっかけとして、これまで非常に多くの抗菌薬が開発されてきました。現在、それぞれの抗菌薬の特徴を活かし、適宜選択しながら使用されています。これからも抗菌薬は感染症治療の中心的な役割を担うものと考えられる一方で、耐性菌の出現は避けることはできない問題です。現在既に多剤耐性菌は世界的な脅威となっていることから、抗菌薬以外の治療法の開発について多くの国で進められています。中でも細菌に感染するウイルスであるバクテリオファージ(ファージ)は、抗菌薬とは全く異なる殺菌機構により殺菌するため、多剤耐性菌に対しても有効であることが示されています。そのため、ファージを利用した療法(ファージ療法)は現在、最も期待されている治療法となっており、世界各国で研究が進められた結果、治療成功例の報告が増えています。しかしその一方で、まだ課題も多く残されています。そして、それらの解決に向けた研究も行われています。本セミナーでは、多剤耐性菌、そしてそれらが引き起こす感染症について説明し、ファージ療法の開発について現在海外で進められている症例を示しながら紹介します。
【講座内容】
1.多剤耐性菌感染症をとりまく現状と今後の動向
1.1 多剤耐性菌の種類とそれに対する取り組み
1.2 多剤耐性菌による感染症の実態
2.ファージ療法とは
2.1 ファージ療法の今昔
2.2 ファージが細菌を殺菌するしくみ
2.3 ファージと抗菌薬の違い
2.4 治療用ファージにもとめられること
2.5 ファージカクテルについて
3.多剤耐性菌感染症とファージ療法
3.1 「個別化」と「非個別化」のファージ療法
3.2 世界におけるファージ療法の実施例
4.ファージ療法の課題と展望
4.1 抗菌薬治療の限界とファージ療法に期待されること
4.2 ファージ療法による治療失敗例から学ぶ
4.3 ファージ療法を実施するまでの課題
【質疑応答】
---------------------------------------
◆講師プロフィール◆
(専門分野) 感染症学
(学位) 博士(薬学)
(略歴・活動・著書など)
千葉大学薬学部修士過程修了後、日清製粉株式会社 製薬部門に入社し、生化学研究室に配属。その後、杏林大学医学部感染症学教室にて医学教育に従事するとともに病原細菌の病原性発現機構に関わる研究を開始。2005年より米国ミネソタ大学への1年間の留学後、2016年ごろより多剤耐性菌のファージ療法の基礎的研究を開始した。さらに2023年にはトランスレーショナルリサーチ研究を推進するため、同大学医学部総合医療学教室に異動。現在は治療用ファージライブラリーの構築に向けてファージの分離から性状解析と並行して多剤耐性菌臨床分離株の解析を行なっている。
|