【講座主旨】
医薬品製造は,これまで大型の反応缶を用いたバッチ法にて行われることが殆どであったが,本方式はいくつかの問題点を有している.バッチ法による製造では,工程間や各中間体において保管や輸送期間が発生するめに生産期間が延長し,結果として薬剤調達までのリードタイムが長期化する原因となっている.また,人が介する作業が多いことからヒューマンエラーによる品質不良の増加も顕在化しており,医薬品産業が抱える課題である「薬剤の安定調達」といった観点からも問題となっている.近年,この解決法としてフロー合成反応を活用した連続生産方式が注目されている.連続生産方式では,全ての単位操作を統合することで各中間体の待機期間を大幅に削減できるだけでなく,設備のコンパクト化による生産サイトの集約化が容易となり,輸送期間の削減も期待できる.また,自動化が容易であると共にPAT(Process
Analytical Technology)などのIn-line分析技術を組み込むことで高度な品質管理が可能となり,人為的ミスによる製品の品質不良を大幅に削減できる.従って,連続生産方式の導入は,薬剤の欠品リスク低減といった社会問題の解決に繋がる新たな製造方式として期待されている.2023年にはICH
Q13にて連続生産に関するガイドラインが採択され,医薬品規制当局より連続生産の指針が正式に示されており,今後,医薬品製造への連続生産の活用が加速するものと考えられる.
医薬品製造への連続生産方式導入の流れを受け,当社では連続生産方式の鍵となるフロー合成反応に早期から着目し,その技術開発と実装化に向けた取り組みを推進してきた.本講演ではフロー合成反応を活用した医薬品プロセスの開発事例と,フロー反応装置の実用的な洗浄方法確立に向けた取り組みについて紹介する.
【講座内容】
1.医薬品業界における連続生産・フロー合成反応について
2.フロー合成の実装化に向けた当社の取り組みについて
3.医薬品プロセスの開発事例-1
3.1 現行法(バッチ処方)の課題
3.2 PATを活用したフロー合成反応処方の確立
3.3 スケールアップの実証
4.医薬品プロセスの開発事例-2
4.1 検討課題
4.2 フロー合成反応処方の最適化検討
4.3 ベンチ設備での実証実験
5.フローリアクター装置の実用的なメンテナンス法の開発
5.1 フローリアクター洗浄時の課題
5.2 洗浄方法確立検討
5.3 実生産での洗浄効果の実証
6.まとめ
【質疑応答】
===講師プロフィール======================
専門分野:有機合成化学、プロセス化学、フロー合成化学
学位:博士(工学)
略歴・活動・著書など:
[略 歴]
2005年3月 関西学院大学大学院 理工学研究科 修士課程修了
2005年4月 株式会社 カネカ 入社
以後、低分子医薬品原薬及び中間体のプロセス開発・スケールアップ研究・フロー合成化学・製造設備導入に関する業務に従事
2020年3月 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科修了
博士(工学)取得
2021年4月より現職
[主な著書]
1.“Safe and Efficient Phosgenation Reaction in
a Continuous Flow Reactor.” Org. Process Res.
Dev. 2018, 22, 247-251.
2.“Efficient and Practical Deacylation Reaction
System in a Continuous Packed-Bed Reactor.” Org.
Process Res. Dev. 2019, 23, 654-659.
3.「連続フロー反応による医薬品中間体の革新的製造プロセスの開発」 有機合成化学協会誌 2020,
78(3), 240-249.
4.“Industrialization of Continuous Flow Process
for Pharmaceutical Industry.” Oggi-Chemistry Today
2021, 39(3), 34.
5.“Application of Continuous-Flow Processing in
Multistep API and Drug Syntheses.” Flow and Microreactor
Technology in Medicinal Chemistry, Wiley‐VCH,
CHAPTER 9, Pages:311-332 (published in 2022).
6.“Establishment and Development of Organolithium-Mediated
Continuous Flow Process for Intermediate of Canagliflozin”
Org. Process Res. Dev. 2024, 28, 1814-1821. 他4件
[受賞歴等]
2017年 JSPC(日本プロセス化学会)優秀賞
2018年 有機合成化学協会賞(技術的なもの)
2020年 CPhI Pharma Awards (Finalist)
: Manufacturing Technology and Equipment
|