【講座主旨】
医薬品の保存安定性は,ICH合意に基づく「安定性試験ガイドライン」をもとに,長期保存,加速及び過酷試験の目的及び方法が示されている。主に製剤化の初期検討において,過酷条件下での短期試験結果より,長期保存安定性の挙動を予測する方法が用いられている。
一方,化粧品の長期保存安定性は,「室温下で3年以上安定であること」であり,発売前の量産化段階において,過酷試験の条件で安定性試験を行い,室温下での経時保存安定性を確保する検討が行われている。例えば,「25℃(室温)下で3年間安定(著しい変化がない)であるためには40℃6カ月の加速試験で安定(著しい変化がない)であることが必要である」などである。
また,食品の賞味期限評価は「食品期限表示の設定のためのガイドライン」に基づいて行っている。その際,防災食、宇宙食など保存期間の長い食品については、5年あるいは10年保管後に検査するといった通常の保存試験を実施すると、世の中のトレンドが変わってしまうことがあるため,加速試験(温度・湿度等を上昇させた環境で保管)を実施することで、短期間で長期の賞味期限を推測することを行っている。
プラスチックなどの高分子材料については,JIS K7226_1999「プラスチック-長期熱暴露後の時間-温度限界の求め方」を参照して,長期間高温に暴露されたプラスチックの耐熱性を,アレニウスの法則で評価することが行われている。
つまり高温加速試験の目的は「室温下での変化を加速して再現できる」といえる。温度依存性(温度が高くなれば,それにしたがって安定性が悪化する)の一般性質であれば「アレニウスの式」を用いて,温度と経時変化の相関を求めることができる。
本セミナーでは,加速試験の結果をアレニウスプロットに表すことで,室温下における安定性を推定する計算方法を習得する。また,基本的な統計手法である「相関と回帰」の関係を理解することで,因果関係を推定する手順を学ぶことができる。
【講座内容】
第1部:様々な安定性評価の方法
1.医薬品の安定性評価方法
1.1 ICHの安定性ガイドライン
1.2 ガイドラインの目的
1.3 ガイドラインの適用範囲
1.4 一般原理
1.5 試験条件
1.6 FDAの安定性指針
2.化粧品の経時安定性評価(加速試験の手順)
2.1 化粧品工業会の考え方
2.2 安定性の温度依存性
2.3 低温安定性について
2.4 安定性試験のまとめ
3.食品の賞味期限を推定する方法
3.1 加速試験の活用
3.2 加速試験の方法
3.3 加速試験の注意点
3.4 賞味・消費期限設定のまとめ
4.高分子材料の寿命予測
4.1 劣化と寿命とは?
4.2 注意点
第2部:統計手法の活用
5.データとばらつき
5.1 データの採り方
5.2 サンプリングの重要性
5.3 測定の誤差について
5.4 ばらつきへの対応
6.統計的考え方
6.1 統計の基礎
6.2 対応のないデータと対応のあるデータ
6.3 相関関係とは(対応のある2つのデータ)
6.4 回帰分析とは
6.5 相関分析と回帰分析
6.6 EXCELを用いた相関・回帰分析(EXCELを使って演習しよう)
7.信頼区間の求め方
7.1 経時変化の信頼区間について
7.2 具体的な計算方法
第3部:アレニウス式を用いた安定性予測
8.経時安定性と反応速度論
8.1 反応速度論の概要
8.2 反応速度論の安定性試験への応用
8.3 1次反応とは
9.1次反応系におけるアレニウス式の活用
9.1 化粧品(乳液)の経時変化例
9.2 パウダーファンデーションの経時変化例
9.3 アレニウス式を用いた検討
10.医薬品の安定性評価
10.1 EXCELを用いた計算手順
10.2 数値を代入した演習
11.食品の安定性評価
11.1 賞味期限の推定方法
11.2 アレニウス式を用いた賞味期限推定
12. 高分子材料の寿命予測
12.1 アレニウス法による寿命評価
12.2 引張試験を用いた寿命予測計算
【質疑応答】
◆講師略歴◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
(専門分野)
品質管理(統計解析,実験計画法,多変量解析,抜き取り検査,QCサークル活動)
品質工学(パラメータ設計,機能性評価,オンライン管理)
品質マネジメントシステム(認証マネジメント,運営管理)
化粧品GMP(薬事監視,GMP運用管理,ISO22716認証支援)
化粧品薬事(広告・宣伝,製造販売届出業務,市販後安全管理,品質保証)
(略歴)
昭和52年群馬高専工業化学科卒
同年(株)小林コーセー(現コーセー)入社
1992年(株)アルビオン転籍
2018年(株)ウテナ入社
(活動)
粧工会(常任理事会理事)
化粧品公正取引協議会(規約委員会委員)
埼玉県化粧品工業会(GMP委員会)前委員
日本品質管理学会(会員)
品質工学会(代議員)
日本技術士会(会員)
(著書)
平成13年,「品質工学応用講座」機械・材料・加工の技術開発,日本規格協会を共同執筆
平成18年「実践タグチメソッド」,日科技連出版社を共同執筆
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