【講座の趣旨】
本講演では、製薬分野における知的財産業務の効率化をテーマに、近年急速に進展する生成AI技術の活用可能性を解説します。複雑かつ膨大な特許網に対応するための先行技術調査やFTO(Freedom-to-Operate)解析、無効資料調査の支援手法を具体例とともに紹介し、生成AIによる構成要素抽出やクレーム解析、対比表自動生成といった実務に直結する応用を示します。さらに、明細書作成やレビュー業務での活用、導入におけるセキュリティ・コスト・教育面の課題にも触れ、研究開発現場と知財部門双方にとって実践的な活用ロードマップを提示します。
◆習得できる知識
・製薬業界に特有の知財業務の特徴と課題(特許網、用途発明、FTOの重要性など)
・生成AIと従来型AIの違い、および知財業務における適用可能性
・先行技術調査・FTO・無効資料調査における生成AIの具体的な活用方法
・請求項要素分解、構成要素抽出、対比表自動生成といった効率化技術
・明細書作成やレビュー支援におけるAI活用の利点とリスク管理のポイント
・製薬知財分野における生成AI導入のロードマップと将来展望(短期〜長期)
【講座内容】
0. 導入
・講師自己紹介と研究背景
・製薬業界における知財の重要性(特許網の複雑性、訴訟リスクの大きさ)
・生成AIが注目される理由:情報量の爆発、知財人材の不足、研究開発スピードの加速
第1部 製薬知財業務とAI技術の基礎
1. 製薬業界における知財業務の特徴
・新薬開発に伴う特許網(Submarine Patent、Evergreen特許など)
・クリアランス調査・FTO(Freedom-to-Operate)の重要性
・医薬用途発明、製剤特許など特有の課題
2. AIの基礎と生成AIの位置づけ
・従来AI(機械学習)と生成AI(LLM)の違い
・自然言語処理・マルチモーダル技術の概要
・特許調査・文献解析における活用例
3. 製薬分野でのAI応用事例
・化合物スクリーニングや創薬支援と知財業務の連携
・特許分類(IPC, FI, Fターム)とAIの相性
・海外の先進事例(米国大手製薬、欧州機関の導入事例)
第2部 生成AIを活用した知財業務の効率化
1. 先行技術調査の効率化
・生成AIによる構成要素抽出・対比表の自動作成
・化学式・配列・用途に対応した検索支援
・RAG(検索拡張生成)を用いたハイブリッド調査モデル
2. FTO・無効資料調査の高度化
・AIによる請求項要素の分解・一致判定
・重み付けによるクレーム評価手法(強い要件/弱い要件の判別)
・ケーススタディ:特許網を跨いだリスク可視化
3. 明細書作成・レビューへの応用
・生成AIによるドラフト文の提案とリスク(誤情報、リーガルチェック)
・化学用語や請求項表現の標準化支援
・Human-in-the-Loopによる品質保証
4. 組織導入・実務適用時の留意点
・セキュリティ・機密保持(クラウドvsオンプレ)
・コスト管理とKPI設定(処理速度・再現率・適合率)
・人材育成と社内教育
第3部 将来展望と実践的ロードマップ
1. 今後2〜5年の技術進展予測
・マルチモーダルAI(化学構造式や配列データを直接処理)
・ベクトルDBによる特許・論文横断検索
・自律エージェントによる調査自動化
2. ベンダーとユーザー双方の視点
・ツール開発側の課題(精度・責任・法的リスク)
・利用者側の課題(社内導入の合意形成、教育、ワークフロー適合)
3. 製薬知財における生成AI活用ロードマップ
・短期:検索効率化・自動要約・分類補助
・中期:クレーム解析・FTO可視化ツール
・長期:創薬・臨床データと知財を統合した戦略立案支援
【質疑応答】
●略歴●
1985年 花王株式会社 研究所 2009年 知的財産部
2011年 アジア特許情報研究会所属
2020年 日本特許情報機構理事長賞「技術研究功労者」受賞
2024年 花王定年退職、AI技術情報アドバイザー、情報科学技術協会研究発表賞受賞
2025年 ソフィア・リサーチラボ起業
情報科学技術協会(INFOSTA)、人工知能学会、データサイエンティスト協会 各会員 |