「月刊PHARMSTAGE」2025年5月号プレビュー

特集 「〜今,GMP・CMC担当者が知っておきたい最新知識〜
      製薬工場のDX化への課題と対策」

設備保全業務のデータ一元管理による業務効率化

桐生 伸也  住友ファーマ(株) 業務管理グループ グループマネージャー

1.はじめに

 住友ファーマ株式会社 は, 人々の健康で豊かな生活のために,革新的な医薬品と医療ソリューションの創出に挑み続ける研究開発型企業です。基幹工場の一つである鈴鹿工場では,「止まらない工場」と「生産性向上」を目指して,従来は標準化されていなかった設備保全業務や,紙ベースの情報管理から脱却を図るべく, 設備保全ならびにキャリブレーション (校正)管理業務を支える新システムを株式会社エクサとともに構築した。設備点検の計画や結果報告,故障記録,キャリブレーション管理に関するデータ等の蓄積により,適切な保全計画を推進し,生産設備および生産支援設備(空調設備, 熱源設備他)の安定稼働を目指した。

2.「 止まらない工場」「生産性向上」を実現するために

 鈴鹿工場が目指す「止まらない工場」と「生産性向上」には,設備の安定稼働が不可欠である。そのためには,品質の維持管理を含めた適切なメンテナンスが必要となる。では,「適切なメンテナンス」とは何か。メンテナンスの目的は設備の安定稼働であるが,メンテナンス中は設備の休止を伴い,生産活動が停止する上に,高額なメンテナンスコストがかかるため,必要以上のメンテナンスは「止まらない工場」と「生産性向上」には結びつかない。これまでの点検記録書や各種関連資料は,紙とPDF, Excel などの電子記録が混在しており,各設備の関連付けも困難な状況であったため,従来のメンテンナンスでは属人的な部分や過去の経験を振り返りながら対応することが多かった。
 「適切なメンテナンス」とは, あらゆる設備の保全データが一元管理され,関連情報との紐づけにより,効果的なメンテナンスが実現できる姿であると考える。これら実現のため,設備保全に関するシステム(以下,設備保全管理システム)を構築し,「 止まらない工場」と「 生産性向上」の実現を果たすこととした。


3.設備保全管理システム

3.1 これまでの設備保全管理

 これまでの設備保全管理は,<図1 従来管理>に示す通り,「点検管理」「キャリブレーション管理」「整備/故障履歴管理」が各々の作業標準書(以下SOP)に従い,運用管理されている。 さらに,「キャリブレーション管理」では「基準書」「 記録書」「 機器台帳」「 方法」に分かれ,SOP が各々で規定されている。このようにSOP は一見網羅的に整っているように見えるものの,実運用面では各種保全情報を確認する際は,設備の導入経緯や故障履歴,各種点検結果などを正確に把握しづらく,最悪な場合は同様の故障が繰り返されることがあった。このように運用管理全体の理解を深めるためには,一定の実務経験が必要となり,属人的な要素も存在するため,適切な設備保全管理の維持運用が困難な状況であった。

図1 従来管理

 

3.2 コンセプト

 3.1 で述べた属人的な管理から脱却するために,設備機器台帳を中心に据え,設備点検・報告・故障の情報に加えて,品質に大きな影響を与えるキャリブレーション管理(温度,湿度,圧力他)と,重要な基準書や精度保証に関する校正記録を相互に紐付けることを目指した。このコンセプトは以下の点に重点を置いている。

(1) 点検計画へ過去の点検指摘や故障実績をフィードバックし,適切な整備内容を検討することで,これまで属人的に対応していた部分をデータ管理し,抜け漏れ防止を図る。
(2) 承認申請のワークフローをシステム内で完結させ,作業計画や報告書を速やかに承認することで業務を迅速化させる。
(3) 点検計画・報告,故障履歴,計測機校正データを全て電子化し,一元管理することで設備保全業務の標準化を図り,各種データの検索性向上やペーパーレス化を実現する。
(4) 計測器の精度保証に関するキャリブレーション基準,キャリブレーション周期や実施年月の登録による適正管理,記録書管理と実施報告に至る全ての計測器の管理情報を信頼性の高いシステムで保証する。
 期待する姿として,設備保全情報のPDCA サイクルを<図2 新設備保全管理システムコンセプト>に示す。設備情報の電子化とPDCA サイクルの実現により,設備保全イベントが常にアップデートされ,属人的な作業管理から脱却を図ることができる。

図2 新設備保全管理システムコンセプト


3.3 提案依頼書(RFP)とベンダー選定

 期待する効果を整理し「提案依頼書(RFP)」として,各ベンダーへ提示した。主な提案内容は3.2 の通りであるが,加えてGMP システムの要件を満たす必要があるため,各種記録や確認・承認のワークフロー化など,管理対象の全ての情報がライフサイクルを通じて一貫性を保ち,破壊や改ざんなどが行われていない完全且つ正確であることを意味する「DI(データインテグリティ)」要素を盛り込む必要があった。これらの要素をシステム管理機能として整理すると「ユーザー管理」「セキュリティグループ(権限設定)」「ワークフロー管理(上長設定と承認行為)」「監査証跡管理」「バックアップ管理」等が含まれ,各種機能の検証とその結果が適切であることを証明しなければならない。また,計測器の精度保証の観点では,校正記録の正確性を担保するための管理機能を構築できるシステムであることも,ベンダー選定を行う際の重要なポイントとなる。これら要件を各ベンダーへ提示し,ヒアリングを重ねた結果,設備保全管理業務の知見があり,システムとして機器台帳・作業管理といった各種情報を一元管理し,且つ電子データの完全性を保証するシステムを構築できる株式会社エクサを採用することとした。


3.4 システム概要

 <図3 システム概要図>の通り,システム概要図をお示しする。主な機能は機能一覧表の通りである。

図3 システム概要図

機能一覧表


3.5 アプリケーション開発とCSV

 システムの実装フェーズに移行するにあたり,ベンダーと協議し,先ずは実現したい姿を作業単位で簡易的にフロー化した。その後,作業ステータスと担当者(部署)をフローチャートへ示し,細分化した各作業をフロー化することで,全体像の把握や工程間の関係性を視覚化した。このフローチャートによって,担当者が各作業フローの理解を深め,早期に不具合の是正を可能とし,後々の運用開始時のマニュアルに活用するなど,作業の標準化の実現に役立った。また,詳細設計と同時に「CSV(コンピュータ化システムバリデーション)」の手順に沿った各種ドキュメント作成や計画に応じた検証作業および報告承認等の確認が必要であり,システム構築に加えたドキュメント管理も重要なタスクとなる。詳細設計時には,主にユーザー要求仕様書(URS),機能仕様書(FS),設計仕様書(DS)などの開発業務に関してCSV 実施手順に沿って計画的に進め,アプリケーション開発への影響がないよう品質保証部門と連携しながら,進捗管理を徹底した。



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https://www.gijutu.co.jp/doc/magazine_pharm%20stage.htm

 

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 『製造データ取得のためのセンター技術』
  https://www.gijutu.co.jp/doc/magazine/p_2025_05_P08.htm

 

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